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さいたま市は畑と街の距離感がちょうどいい。『こばと農園 』が地域で生み出す“幸せの循環”。

大宮
さいたま市は畑と街の距離感がちょうどいい。『こばと農園 』が地域で生み出す“幸せの循環”。

さいたま新都心や大宮などの主要駅から2~3kmという好アクセスの場所に広がる広大な緑地空間、見沼田んぼで「こばと農園」を営む田島友里子さん。

有機農業に取り組む田島さんが大切にしているのは、顔の見える関係性がつながり合い、地域内で資源や経済を循環させる「地域循環」。田島さんは畑と街の距離感がちょうどいい「さいたま市」だからこそ、無理なく「地域循環」を生み出すことができると話す。

昨年には自身が所属する有機農家グループ「さいたま有機都市計画」のメンバーで「さいたまOrganic City Fes.」を開催。想像以上の盛り上がりを見せ、多くの人が有機農家の方や作物に触れ畑と街がつながるきっかけとなった。

今回は田島さんに、さいたま市で農業をする魅力や、『さいたま有機都市計画』を結成した経緯、田島さんがこばと農園を通じて取り組んでいきたいことを中心にお話を伺った。


「食べ物を作って売る」というシンプルさに惹かれ農業の道へ

――田島さんが農業を仕事にしようと思われたきっかけをお伺いできますか?

田島さん: 大学・大学院では美術を専攻していて卒業後は企業に就職する道も考えていたのですが、社会の一員として働くことで自分や社会にどのような影響があるのか、いまいちピンとこなかったんですよね。

改めて「働くとは何なのか」と考えた時に、「食べ物を作って売る」というシンプルさに惹かれて農業の道に進みました。

――実際に働き始めていかがでしたか?

田島さん: 1日8時間農業をして、ご飯を食べてお風呂に入って寝る、というサイクルが本当に気持ちよくてすごく肌に合っているなと思いました。

昔から住んでみたかった北海道で就農をしたのですが、自然の豊かさと厳しさの両面を肌で感じることができたのは、とても貴重な経験でしたね。
北海道は時期によって驚くほどに積雪量が多く、数時間で車が埋まってしまう程に積もることもあって。

もしここで車が止まったら命が危ういかもしれないという経験を何度もして、人間は自然の中ではいかにちっぽけな存在なのかを実感しました。

―― 広大な自然が広がる北海道ならではの体験ですね…!
結婚を機に旦那さんの出身地であるさいたま市に引っ越しをされたそうですが、農業をする場所が変わることに対してどのように感じましたか?

田島さん: 農業は日本全国どの地域でも行うことができて、地域によって風土が全く異なることが魅力の一つだと思っています。
北海道は私にとって、とても良い環境だったので寂しさもありましたが、また違う地域で農業を出来ることが楽しみでした。

この街は、地域循環を生み出すための「地の利」がある

―― さいまた市で実際に農業を始めてみていかがでしたか?

田島さん: 全く土地勘がありませんでしたので、現在畑を持っている見沼田んぼ付近に初めて訪れた時は、その土地の広大さと自然の豊かさに良い意味で驚きました。

土がとても肥沃ですので、肥料や農薬を一切使用しない自然栽培で野菜を育てることができます。
これだけ広大で自然が豊かな場所でありながら、浦和駅や大宮駅といった人口の多いエリアからのアクセスがよいところも魅力的で。

有機野菜を購入してくださる消費者の方が多くいらっしゃったり、自ら配達をして直接販売することができています。

―― たしかにこれだけ広大で豊かな自然が残りつつ、都市部へのアクセスも良いエリアは珍しいですよね。

田島さん: 自然が豊かなエリアですと、どうしても都市部から離れてしまうことが多いんですよね。

私が行っている有機農業の本質は「地域循環」だと思っています。
さいたま市であれば、都市と自然のバランスがちょうど良いので地域循環を無理なく生み出せると感じていて。

例えば、地域の顔の見える人同士で野菜の売り買いをしたり、顔の見える人が経営している飲食店に行ってご飯を食べにいったり。
顔の見える関係性がつながり合い、地域内で資源や経済を循環させることが、安心感や心の豊かさに繋がると思っています。

「有機野菜は高い」というイメージを変えたい

――たしかに、顔の見える関係性が増えるほどに、住んでいる地域への安心感や愛着が高まるように思います。一方で地域の農家さんが作った作物を購入できる場所が、まだまだ限定されているように感じるのですがどう思われますか?

田島さん : そうですね。
さいたま市では既にたくさんの作物が作られている一方、おっしゃる通り購入できる場所は限られているので、多くの消費者の方が小売店で他の地域で作られた作物を安価な価格で購入されています。

それはとても便利でありがたい一方で、遠い地域から配送されているのに安く購入できるということは、どこかに皺寄せがいっている可能性があるんですよね。

それぞれの地域で作られた作物を購入できれば「地域循環」につながりますし、どこかに皺寄せがいくこともありません。もっと顔の見える地域の農家さんから、作物を購入できる機会を増やしていけたらなと思っています。

――ぜひそんな機会や場所が増えて欲しいですね。
「有機野菜は高い」というイメージを持っていましたが、田島さんの販売されている野菜の価格を見ると全くそんなことありませんよね。

田島さん: 配送業者さんを使わず私自身で配達をしているので、販売価格を抑えることができています。
畑と街の距離が近いさいたま市ならではですね。

世間の「有機野菜は高い」というイメージも少しずつ変えていけたら嬉しいです。

畑と街をつなげる「 さいたまOrganic City Fes.」

―― さいたま市に来た当初から、「地域循環」を生み出せていると感じていたのでしょうか?

田島さん:いえ、地域循環が生み出せていると実感しはじめたのは、さいたま市に引っ越してきてから3年目くらいです。引っ越してきて農業をはじめた2017年当初は地縁がなかったこともあり孤独でした。

地道に活動を続けている中で、作った野菜を通して地域の消費者の方や、飲食店、他の農家さんとのつながりが生まれ、徐々に循環の輪が広がっていきましたね。

―― 地道な活動を続けてきたからこその、今なのですね。
2020年には有機農家のグループ「さいたま有機都市計画」を結成されましたが、その経緯をお伺いできますでしょうか。

田島さん: 「さいたま市を有機農業で盛り上げよう!」という話をさいたま市で有機農業をされている先輩である『内藤農園』の内藤さんとしたことがきっかけでした。

定期的に農家メンバー同士で集まって現在抱えている悩みを相談しあったり、思い付いたアイディアを交換する機会を作っています。

また、想いに共感して活動を応援してくださるサポートメンバーさんを募っていて、イベントや有機農業体験を開催する際には優先的にお声がけをしたり、定期的にメンバー同士の交流会を行っておりまして。

明確な目的や目標を持って活動をしていたわけではなく、「一人一人が可能な範囲で関わっていきましょう」というスタンスにしたことで、緩やかに活動の機会やメンバーが増えてきたように感じています。

――  これまで緩やかに活動を拡大させてきた中で、昨年は浦和駅前市民広場で「さいたまOrganic City Fes.」という大規模なイベントを開催されましたよね。

田島さん: はい。「さいたまOrganic City Fes.」は、採れたての新米や、色とりどりの旬の野菜、フルーツを直接販売したり農的ワークショップが楽しめるイベントで、想像以上に多くの方にきていただいて本当に驚きましたね。

畑と街がつながり「地域循環」が生まれるきっかけになったのかなと感じています。
今年も11月11日(土)に開催することが決定しているので、ぜひ多くの方に来場していただけたら嬉しいです。

昨年度のイベントポスター

「幸せの循環」が生まれる場所に

――  とても楽しみです。さまざまな活動を通して、徐々に「地域循環」の輪が広がっているように感じます。こばと農園として、今後取り組んでいきたいことはありますでしょうか?

田島さん: より多くの人に野菜を通して幸せを届けていきたい気持ちは、新規就農当初から変わらず持っているのですが、最近は何よりも、こばと農園に関わることで幸せになる人を増やしていきたいと思っています。

こばと農園に来て農業をしながら周りの人と話すことで気持ちが楽になったり、働いているパートさんがただお金を稼ぐだけでなくて、何か一歩踏み出すきっかけになったり。

こばと農園がさいたま市の中で「幸せの循環」が生まれる場所へとなれたら嬉しいです。

こばと農園

〈インタビュアー・文・撮影:菊村夏水 / 企画・編集:青野祐治

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