menu
menu

友人や地域、お客様との関係性を大切に。自分の「食べたい」を追求したベーグルを / satopokke 宮嶋恵さん

大宮
友人や地域、お客様との関係性を大切に。自分の「食べたい」を追求したベーグルを / satopokke 宮嶋恵さん

大宮駅西口から車で15分ほどの住宅街にある「satopokke」。

主に扱うのはベーグルと焼き菓子で、決してアクセスが良いとはいえない立地にも関わらず、営業開始前には行列ができ営業時間前に売り切れることもしばしば。

大宮で生まれ大宮で育った店主の宮嶋 恵(みやじま さと)さんに、ここに至るまでの経緯やベーグルのこだわりを中心にお話を伺いました。

「ムギュッ」とした食感の理由とは

―― satopokkeさんのベーグルはまさに『ムギュッ』という表現がぴったりな食感だなと感じます。歯応えがしっかりあるベーグルと柔らかいフワフワのベーグルのちょうど中間というか。なぜこのような食感になっているのでしょうか?

恵さん : 私が食べたいと思うベーグルを作っているんですよ。
私は胃腸があまり強くないのですが、ベーグルが好きなのでつい何個も食べたくなります。
歯応えがしっかりしていると、一個で満足してしまうんですよね。

でも、ベーグルならではの弾力も楽しみたい。その結果、今くらいの食感になっているんです。

―― 恵さんの胃腸の強さが、この絶妙な食感を生んでいるのですね(笑)。後味がスッキリしているのも恵さんの好みなのでしょうか?

恵さん : そうですね。
小麦粉など、素材の味を最大限に味わってもらいたいと思ったら、無添加・保存料不使用になりました。

それが後味のスッキリさにつながっているのかなと思っています。

平均20種類のバラエティ豊かなベーグルが店頭に並びます

―― 小さい頃からベーグルが好きだったのでしょうか?

恵さん :小さい頃はパン屋になるのが夢で、特別にベーグルが好きだった訳ではないですよ。

小学生の頃、月に一度くらい近所のパン屋に母からお金をもらって、おつかいにいくことがとっても楽しみでした。今でも、そのパン屋で見た光景や焼きたてのパン、淹れたてのコーヒーの香りを覚えていますね。

パンが「買うもの」から「作るもの」に

―― では、高校を卒業後にパンの道に進まれたのですかね。

恵さん : いえ、高校を卒業後に、不動産業を営んでいた父の勧めで測量を学ぶ専門学校に行き、そのまま不動産に関する「登記」や「測量」を行う土地家屋調査士事務所に就職したんです。
この頃は、パン屋になることは頭の片隅に追いやられていました。

測量の仕事は市街地だけでなく荒れ果てた土地や、山、林で行うこともしばしばで。
時には蜘蛛の巣をかき分けて突き進んでいくこともあり、基本的に屋外なので夏は暑く、冬は寒い。なかなか過酷な仕事でしたね(笑)。

22歳の時に結婚をして、妊娠をしたタイミングで退職しました。
二人目の子どもが生まれたタイミングで、パンが「買うもの」から「作るもの」になったんです。

―― 二人目のお子さんが生まれたことが、パン作りのきっかけになったと。

恵さん : そうなんです。
年子だったので買い物にいくとなると、一人はベビーカーで、一人はおんぶする必要がありました。

それが毎日となると流石にしんどいなと感じて。
「朝ごはんのパンを自分で作れたら、買い物に行く頻度をらせるんじゃない!?」と思ったんですよ。これがパン作りの始まりでした。

今のようにネットスーパーが主流だったら、今の私はなかったかもしれませんね(笑)。

―― パン作りはいかがでしたか?

恵さん : とても楽しくて、どんどんハマっていきました。家でパンを作るだけでは飽き足らず、大手のパン教室に通い、『ブレッド師範』という資格を取得しまして。

その資格を活かして、同じ子育て中のママ達向けに子連れOKのパン教室を開講することもあったんです。

ベーグルを作るようになったきっかけとは

―― すごい。あっという間に教える立場にまでなっていったのですね。その頃からベーグルをよく作っていたのでしょうか?

恵さん : そうですね。
当時は色々な種類のパンを作っていたのですが、ベーグルは「小麦粉・砂糖・酵母・塩・水」という材料だけということもあり手軽だったので、よく作っていたんです。

小麦粉でベーグルの味や風味がガラリと変わるのが楽しくて、いろいろな小麦粉を取り寄せることもありました。

―― 材料がシンプルという手軽さ、そして素材による味の変化が楽しくてベーグルをよく作るようになったと。

恵さん : はい。たくさん作って、友達によくお裾分けしたりしてましたね。

みんな美味しいって言ってくれて、お世辞の面もあるとわかりつつ、その気になっちゃって(笑)。
いつか自分でベーグル屋ができたらなぁと、漠然と思うようになったんです。

焼く前に一度ゆでる工程を入れることでベーグルの独特の食感が生まれます

―― 友人の声が、お店を始めようと思う大きなきっかけになったのですね。

恵さん : そうですね。
それから、子どもが小学校に行くようになり、自分の時間を取れるようになったタイミングで、大宮の氷川参道付近にベーグルカフェがオープンしたんです。

打ちっぱなしのコンクリート壁の店内がとっても可愛くて、夢に思い描いていたようなお店でした。
求人募集をしていたので、迷わず応募したら無事に採用していただけて。

仕込みやベーグルの焼成にホールでの接客とさまざまな業務に携わらせてもらって、毎日がとても楽しかったですし、たくさんのことを学ばせていただきました。

「いつか自分でベーグル屋がやりたい!」という気持ちがより強まった経験でしたね。
ですが、2011年の東日本大震災の影響で閉業してしまって。

―― なんと。そのあとは別のベーグル屋さんで働いたのでしょうか?

恵さん : いえ、自分や家族の安全を優先したいと思って、近所の建設会社でアルバイトをすることにしたんです。

正社員の誘いを断り、友人の挑戦を応援・サポートする道へ

―― 全く違う分野に。

恵さん : そうなんです。仕事自体とても楽しくて、数年働いたタイミングで正社員にならないかという話までいただいて。

でも、同時期に高校時代からの友人から「一緒にベーグル屋をやらないか?」と声をかけられたんです。
昔から仲が良くて、色々と助けてもらうことも多かったので、その挑戦を応援・サポートしたいと思ったんですよね。

―― ということは、正社員の道を蹴ったと。

恵さん : はい。

それから数年間、友人にベーグルの作り方を教えたり、一緒に店舗運営をしながら働いたんですよ。
お店として軌道に乗ってきたタイミングで、私はお店から離れることにしたんです。

satopokkeを始めると決めた時、同じさいたま市でベーグルを作れると思ったのですが、今は群馬県に移転してしまって。少し寂しかったです。
でも、向こうでも変わらず美味しいベーグルを作っていて、たくさんのお客様に慕われているようなんです。それを聞いてとても嬉しかったですね。

風味豊かなチーズとコク深いチーズを使用した「Wチーズベーグル」

―― ご自身のお店を始めたのは、友人のお店を離れたタイミングだったのでしょうか。

恵さん : いえ、それから料理教室の会社でパン作りの講師をしたり、パン屋でフルタイム勤務をしていました。

ベーグル以外のパンや焼き菓子も作れるようになりたいという気持ちと、国家資格である「パン製造技能士」という資格を取得したくて。その資格はパン屋で働く必要があったんです。

晴れて資格を取得することができたので、本格的に自分のお店を持つ計画を進めることにしました。

自宅の一階を店舗に

―― 自宅の一階部分を店舗にされていますが、現在の物件に住む前から計画していたことなのでしょうか?

恵さん : 元々、マンションに住んでいて現在の家に引っ越してきたのは8年前のことでした。
引っ越す前からなんとなく自宅でお店をやることはイメージしていて。

だとすると、住宅街というよりかは人の往来がある大通り沿いが良いのではないかと思っていたんですよね。

―― 自宅でお店をやることを考えつつ、現在住んでいる物件を選ばれたのですね。

恵さん : はい。実は家族には、自宅の一階でお店をやりたいとは言ってなかったのですが。笑
初めて旦那に話しをした時は反対されましたが、しっかりと計画書を作って実現可能なことを説明したら、応援してくれるようになりましたね。

元々、友人の手伝いをするとなったタイミングで旦那からは「自分でやらないの?」と言われていたので、いつかお店をやるとは思ってくれていたんだと思います。

―― 無事、家族からの応援も得られたと。お店作りはいかがでしたか?

恵さん : リフォーム会社を経営する高校時代の先輩にお願いしたんです。
無理も言ったと思いますが、限られた予算の中で思い描いていたお店を作ることができました。先輩の職人技に感謝です。

素材の味が存分に楽しめる「プレーンベーグル」

―― お店を開店していかがでしたか?

恵さん : 店舗を開店してから一年半なのですが、想像以上にお客さんにきてもらえて驚いています。早い時間帯で完売することもしばしばで。

営業日を増やしたりネット販売したいと思っているのですが、今の設備と体力的に週3日程度の営業で限界なんですよね。

3時間睡眠

―― 営業日は、どのようなスケジュールでは働かれているのですか?

恵さん : 午前1時に起きて、開店時間の11時まではノンストップで一人で製造をしています。営業は13時までなのですが、片付けや翌日の仕込み等で仕事が終わるのは大体17時くらいになりますね。

それから家事をして、体力のことも考え、22時までには寝るようにしています。

―― 22時に寝られたとして、次の日が営業日だと……

3時間睡眠ですね(笑)。

―― そうですよね(笑)。とてもハードスケジュール。 

恵さん : そうなんです。他のパン屋やベーグル屋にも食べにいきたいし、自分の時間も大切にしたい。
だけれども事前の作り置きはせず、当日に焼き上げたものを提供したくて。
仕込みに手間ひまかける時間も惜しみたくないんです。

昨年末、仕込みに使うミキサーを買い替えて大分、仕込みが楽になったんですよね。
今後も少しずつ設備を新しくして、時間と体力の余裕を増やしていきたいです。

地域の食材を使う理由とは

―― 恵さんにとってお仕事のモチベーションってなんでしょうか。

恵さん : お客様からの嬉しいお言葉や、ご来店の際の笑顔ですかね。

「あのベーグルが美味しかったです」「また食べたいです」と伝えてもらったり、リクエストしていただくと嬉しくて、食材が手に入り製造可能であれば次の週にでも!と思ってしまうくらい。

用意する商品を柔軟に変更できるのは、個人店の良いところですね。

マフィンやスコーンなどの焼き菓子も店頭に並びます

―― 恵さんは、友人やお客様の声など、周りの人との関係性をとても大切にされているのだなぁと思いました。食材に関していうと、地域の生産者の方のものを積極的に使用されていますよね。

恵さん : はい。私、植物を育てることができなくて。
だから作物を育てる農家さんのことを無条件で尊敬してしまうんですよね。

それが自分が生まれ育った大好きな地域の農家さんなら尚更。
普段からやり取りができて、実際に畑を見にいったりもできる。

人柄がわかった上で購入できるって素敵だなと思います。
丁寧に育てられた素晴らしい作物を、たくさんの人に知っていただけるきっかけになれたら嬉しいですね。

不定期で地域の生産者の方の野菜の店頭販売を行っている。写真は緑区で農業を営んでいる「こばと農園」の野菜
見沼区で生産された「氷川いちご」を使用したスコーン

生粋の大宮っ子

―― 農家さんへの敬意と熱い想いが伝わってきました。大宮にはいつから住まれているのですか?

恵さん : 生まれてからずっと大宮に住んでいます。

実家は大宮駅東口側の大宮公園の近くで、身近に緑を感じられる場所で育ちました。結婚してからは大宮駅の西口側に引っ越しまして。

子供達を遊ばせられる緑が豊かな公園が多かったり、買い物に便利なところが魅力ですね。最近では私のお店含め、個人店が増えてきたように思います。

―― 生粋の大宮っ子なのですね。これから取り組んでいきたいことはありますか?

恵さん : もっとイベント出店の機会を増やしていきたいなと思っています。
同じ埼玉県内の川越市や戸田市は、個人店が集うようなイベントを頻繁に開催されているように感じていて。

それぞれのお店がお目当てのお客様が足を運び、他のお店を知るきっかけになるのが素敵だなと思っています。お店通しのつながりができるのもいいですよね。

今年から土曜日は隔週営業に変更したので、機会があれば積極的に参加していきたいと思います。

―― 大宮付近でも、個人店が集うようなイベントが増えるといいですね。本日はありがとうございました!

satopokke
  • 店舗名:satopokke
  • 所在地:さいたま市北区櫛引町2ー400ー6
  • お問い合わせ先:InstagramのDMより
  • 営業日時:木・金 / 第1.3.5水 / 第2.4土(祝日休み) 11:00〜13:00 (売り切れ次第close)
  • 駐車場:無し(近隣のコインパーキングをご利用ください)
  • SNS:@satopokke

〈インタビュアー・文・撮影:菊村夏水

daimon catalogダイモンカタログ

DAIMONがピックアップしたモノ、フード、体験などを
まとめているカタログです。