長年携わった音楽業界から農業の世界に。畑作業・SNS運用、夫婦それぞれの”得意”を活かし、二人三脚で新たな道を突き進む。 / Chill Out Farm
さいたま市岩槻区で有機農業を営む『Chill Out Farm』(チルアウトファーム)の吉田浩之さん。
10年ほど前に音楽業界から農家に転身。
4年間、障害者支援施設の現場で福祉と農業を学び、4年前に農家として独立した。
2箇所の性質の異なる畑を耕作し、それぞれの特性を活かした多品目栽培に取り組んでいる。
独立当初は取引先探しに苦労したがSNSをうまく活用することで、
今ではダイレクトメッセージを通じて野菜の取り扱い希望の連絡がくることも。
異業種から農業に挑戦した吉田さんに、栽培のこだわりやSNS活用のポイントを伺った。
音楽業界からの転身
――『Chill Out Farm』というポップな農園名が印象的ですが、由来をお伺いできますか?
吉田さん : 他にも候補があった中から、字面や音の響きを大切にして『Chill Out Farm』と名付けました。
農業に携わる以前は音楽業界で働いていたのですが、「農園名」イコール「レーベル名」みたいなものなので、意味合いも含めその感覚で命名しました。
―― 音楽業界から農家に転身されたのですね!前職ではどのような業務を?
吉田さん : 音響関係の会社で8年、レゲエに特化したレコード会社で7年働いていましたね。
音響の会社では、主にライブハウスやレコーディングなどの現場で働いていました。
音響の仕事はすごく楽しくやりがいがあったのですが、たまたまレゲエに特化したレコード会社の求人を見つけたんですよね。
音楽を好きになったのが、高校生の時にヒップホップを始めとしたクラブミュージックを
聞いたことがきっかけだったので、直感的にこれだ!と思い転職したんです。
――音楽業界の中でもより好きなことに近いお仕事に転職されたのですね。
音響関係の会社とレコード会社では仕事の内容が大きく異なりそうです。
吉田さん : そうですね。
小さなレコード会社だったので、営業や所属アーティストのツアー同行、
ライブの企画制作からちょっとしたデザインまで、本当に何でもやっていました。
毎日が刺激的ですごく楽しかったです。ちょっと記事にはできないことばかりなので、詳細は伏せますが(笑)
農業と福祉。興味のある二つの分野を同時に学べる道へ
――それは残念です(笑)。充実した時間を過ごしていた中でなぜ農業の世界に?
吉田さん : レコード会社を退職したのは10年前の2014年だったのですが、
ちょうどCD末期の時代で音楽業界の転換期だったんですよね。
今後、業界がどうなっていくのかわからない不安があり退職することにしたんです。
退職後に今後のことを考える中で、漠然と社会の役に立ったり社会に必要とされている仕事に就きたいと思い、農業が選択肢として浮かんできたんですよね。
―― 音楽のように元々、好きだったからという理由ではなかったのですね。すぐ現在のように個人で農業を始めたのでしょうか?
吉田さん : やるならば初めから個人でという想いがあり、さいたま市の農政課や県の農林振興センターに土地を借りられないか相談にいったのですが、「未経験では厳しい」とあしらわれてしまって。
色々と求人情報をみていたら、農業にも取り組んでいる障害者支援施設の求人を見つけたんですよね。
福祉業界にも興味を持っていたので、働かせてもらうことにしたんです。
――結果的に興味のある分野を同時に学べる職場に転職出来たのですね。
吉田さん : そうなんですよ。
農作業を実際にやってみるとすごく楽しかったですし、色々と教わりながら出来るのは結果的にありがたかったです。
ですが、野菜が販売されるまでにさまざまな工程があることを体感した上で、野菜一袋の値段について考えてみると、改めて厳しい業界だなと思いましたね。
―― 畑を耕し、種を植え、世話をし、収穫。洗って、袋詰めをしてようやく出荷。
さまざまな工程があったうえで一袋の値段が150円程度ですもんね…。
業界の厳しさを体感して、他の選択肢を模索しようとは思わなかったのでしょうか。
吉田さん : 年齢的に転職する最後のチャンスかなと思っていたので、やるしかないという気持ちだったんですよね。
―― 給料が安定していて興味のある分野の仕事が出来ていたのに、独立されたのはなぜだったのでしょうか。
吉田さん : せっかく始めるなら独立して、自分の屋号を持てた方がかっこいいじゃないですか(笑)。
それと、業務の全てを自分で決めることができるのは魅力的だなと思ったんです。
畑の特性を活かして多品目栽培に取り組む
――実際に独立してみていかがでしたか?
吉田さん : 単純に農作業は楽しいですし、立てた計画通りにことが運ぶとすごく嬉しいですね。
一方で、まだまだ技術や経験が足りてないなと痛感することが多いので、日々勉強だなと感じます。
今は岩槻区の2箇所の地区で畑を借りているのですが、それぞれ土地の特性が違うので日々試行錯誤しながら取り組んでいますね。
――特性が違うと、それぞれの畑でどの野菜を育てればいいか判断が難しそうですね…!
吉田さん : まさにそうですね。大きな特徴でいうと水捌けがぜんぜん違っていて。
水捌けが良いと土が風で舞いやすいので、レタスやキャベツのような葉野菜は土が入り込みやすく向いていなかったり。逆に大雨が降ってもすぐに乾くので、数日で畑に機械を入れることができるメリットもあります。
2箇所それぞれの畑の特徴を理解することは大変な面もあるのですが、さまざまな野菜を育てる多品目栽培をしている僕にとってはメリットだなと思います。
農作業・SNS運用。夫婦で役割分担をする強み
―― 畑が2箇所に分かれていることはメリットにもなるのですね。
分かれているといえば農作業は吉田さん、インスタグラム運用は奥さんがメインで担当しているとお聞きしましたが、役割分担をした理由とメリットはどのようなところでしょうか。
吉田さん : 僕があまりSNSが得意ではなくて(笑)。
奥さんの方がマメでSNSにも慣れていたのでお任せしているんです。
そのおかげで農作業に集中できているので本当にありがたいですね。
――インスタグラムを運用する上でどのようなことを大切にされているのでしょうか?
吉田さん : 出来るだけフォロワーの方の目に触れるため、毎日更新することを意識しているみたいです。
どうせならば楽しんで見てもらいたいと、投稿内容は畑のことや販売情報といった農家としての情報に限らず、おすすめの野菜を使った料理やプライベートなど、さまざまな発信をすることを意識していると話していました。
――たしかに、農家以外の一面や野菜の調理方法などタメになる情報を知れると、見ている方としては楽しいですしどんどん親近感が湧いてきます。
吉田さん : そのおかげか、ありがたいことにインスタグラム経由で野菜販売や取扱いのご相談をいただくこともあるんです。
――それはすごいですね。農家さんは野菜を販売するために、飛び込み営業をされているイメージがありました。
吉田さん : 最初は営業することも多かったのですが、徐々にダイレクトメッセージをいただけるようになりましたね。
――少しずつファンや取引先を増やされている中で、今後の目標はありますか?
吉田さん : 今現在、新規就農者の補助金をいただいてる立場でまだまだ売り上げとしては満足いくものではないのです。なのでまずは農業一本で食べていけるように技術や能力を伸ばしたり、認知してもらえるようにSNSの更新を頑張っていきたいですね。
もう少し余裕が出てきたら、好きな音楽と農業を掛け合わせたイベントをやれたら嬉しいなと企んでます。
――音楽と農業を掛け合わせたイベント、斬新ですね!楽しみです。本日はありがとうございました。
- 所在地:さいたま市岩槻区
- お問い合わせ先:インスタグラムDMより
- SNS:@chilloutfarm
〈インタビュアー・文・撮影:菊村夏水 〉
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