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「農」を軸に、やりたいことをやれる時に。色々な人が美味しい食事を共にする「場」をつくる /  ハオツーツァイ 菊池愛子

大宮
「農」を軸に、やりたいことをやれる時に。色々な人が美味しい食事を共にする「場」をつくる /  ハオツーツァイ 菊池愛子

「農」を軸に、コミュニティづくりや居場所作りなどの様々な活動をしている『ハオツーツァイ』の菊池愛子さん。

家族との時間を大切にしながらもフットワークがとても軽く、岐阜で行われたイベントのボランティアに子連れ・泊まり込みで参加したり、興味関心のある方に自らアプローチし勉強会を開催することも。

「人生は長くないので、動ける時に動きたいです」と話す菊池さんに、その考えに至った経緯や活動に置いて大切にしていることを中心にお話を伺いました。

「食卓を囲む」ことの幸せを知った、台湾でのボランティア

―― ハオツーツァイ、ハオツーツァイ……。ついつい口にだしたくなる屋号ですね。どのような想いが込められているのでしょうか。

菊池さん : ハオツーツァイは中国語で「美味しい野菜・美味しい食事」という意味になります。
ハオツーは「美味しい」、ツァイは野菜の「菜」、「食事」という意味で使われる言葉でして。

私は野菜を育てたり誰かと食事を共にすることが好きなので、二つの意味を含むツァイという言葉をぜひ屋号に使いたいなと思ったんですよ。

私が大学生の時、長期休みの度に台湾に訪れていまして。その時の経験が屋号の由来になっているんです。

―― そうだったのですね。ぜひ訪れるようになったきっかけを教えてください。

菊池さん : 私が高校生だった1995年に阪神淡路大震災があったのですが、その当時の自分には何が出来るかわからなかったんですね。結局、直接的に何かをすることが出来なくて、すごくもどかしかったんですよね。

その後、大学に進学して一年目の秋に差し掛かった頃に台湾で大地震があったんです。今なら時間はあるぞと思って、たまたま現地でボランティアをしている方とつながり、長期休暇を利用して一人で台湾に渡りました。

このボランティア活動が、たびたび台湾に訪れるきっかけとなったんですよね。

撮影は菊池さんが一部を借りている白岡市の市民農園にて行いました
肉厚でシャープな辛さが特徴の唐辛子の一種「ハラペーニョ」

―― ボランティアはいかがでしたか。

菊池さん : 瓦礫処理などの作業をみんなで行い、拠点となる事務所に戻って、その日に感じたことをワイワイガヤガヤと話しながら食事をして、食器洗いの担当を決めるために全力でジャンケンをする。

それがボランティア期間中の日々のルーティンでした。

一緒に活動していたメンバーは日本人の他に中国人や台湾人もいて、言語が違うので円滑にコミュニケーションが取れるわけではなかったのですが、みんな学生のようなノリで毎日がすごく楽しかったんですよね。

その当時、まだ反抗期の続きみたいな感じで実家ではあまり家族と話をしていなくて。
食事の時は特に会話もなくぱぱっと食べて、バイトに行っちゃうみたいな感じでした。

だからこそなのか、誰かと食卓を囲んで何気ない日常を共有し、他愛もない話しをしたり一緒に笑い合える時間がすごく尊く感じたんです。

ある日、いつも通りみんなでご飯を食べた後に皿洗い担当を決めるジャンケンをしていた時、急に涙が出てきたんですよね。ちょっとその場にいられなくなって、事務所の外にでて幸せを噛み締めながら泣いていました。

―― なんと。それはとても尊い経験ですね。

菊池さん : あの時の経験がきっかけで自分の心が前よりもオープンになったり、家族や友人など誰かと食卓を囲むことが特別なものになったんです。

それから、ボランティアを通じて色々な国の人と接する中で、大変なこともありましたが文化の違いが面白いなと思うこともいっぱいあって。

いつか年齢も性別も立場も国籍も関係なく、色々な人が『美味しい食事』を共にする、そんな世界を実現できたらいいなと思うようになったんです。
その想いをロゴのデザインに込めているんですよ。

真ん中部分のイラストは器とフォーク、そして私が普段作っている野菜で構成されていて「食事」を表現しています。
フォークが2つあるのは誰かと食事をしているイメージを想起してもらうためです。

一番外側の楕円形は食卓を、その内側は様々な言語や記号で屋号を表記することで様々な年齢・性別・立場・国籍の人が食卓を囲んでいることを表現しました。

―― すごいですね。菊池さんの想いが全てロゴに込められている。

菊池さん : デザイナーの安藤さんに上手く想いを汲み取ってもらいました。
ロゴが完成したことで、自分のやっていきたいことがより明確になったんですよね。

ベランダから始まった「農」との関わり

―― ロゴに込められた想いを聞いて、農家と名乗っていない理由が分かった気がしました。

菊池さん : よく聞かれるんです。野菜やハーブを育てているので「農家なんですか?」と。
農地取得のために就農を目指してはいるのですが、農作物を作る以外にもさまざまな活動をしているんですよね。

―― どのような活動を行っているのでしょうか。

菊池さん : 現在は、生ごみの堆肥化をツールとして場作りやコミュニティ作りの可能性を考える「DOJOYラボ」、埼玉県の白岡市で農でつながる居場所作りをする「寺小屋 えん」、みんなで野菜の収穫体験をして収穫した野菜を使い料理をして食事を囲む「823farmingclub」が主な活動です。

活動は多岐に渡っているのですが、その軸には「農」があるんですよね。

―― 菊池さんが「農」に携わるきっかけは何だったのでしょうか。

菊池さん : 子供時代は外遊びが大好きでしたが、植物に特別興味があった訳ではなかったんですよね。

大きなきっかけは介護をしていた父が亡くなったことでした。
20代はワーキングホリデーでニュージーランドに行ったり、保育士として働いていましたが、29歳の時に母が病気になったことをきっかけに、仕事を辞め30代は両親の介護が生活の中心になったんです。

『寺小屋えん』の拠点となる「そらのいえ」

―― お仕事を辞めて介護に集中されたのですね。

菊池さん : はい。家族との時間をなによりも大切にしたくて。
でも介護に全力投球だったからか、母を亡くした直後に少し鬱っぽくなったんですよね。

だからこそ、その後に父を亡くした後、何か新しく始めないとまずいかもと直感的に思ったんです。
そんな時にシェア畑の会員募集のチラシを見てピンときたんです。

振り返ると、両親の介護期間中にベランダに置いていたプランターをいじる時間にすごく癒されていた影響があるかもしません。

―― シェア畑だと小さい規模感で始めることが出来るのが魅力的ですよね。

菊池さん : 私の場合は約10㎡からのスタートでした。
初めてみたらすごく楽しくて、土いじりや野菜作りをどんどん探求したくなったんです。

そのシェア畑で、さいたま市の桜区で畑を持っている「やまとハーブ」の山崎さん、「うまさいファーム」の原田さんとつながり、一緒に農業女子会を開いてアイディアの共有をしたりしていたんですよ。

当時は二人がシェア畑のスタッフで私は会員の一人だったのですが、今ではそれぞれが屋号を持ち活動していて、本当に不思議な縁だなと感じています。

学べば学ぶほどに疑問が増えていく

―― シェア畑のあとはどのような変遷をたどって現在に至るのでしょうか。

菊池さん : どんどん野菜作りにハマっていき、シェア畑の規模では物足りなくなりまして。
当時住んでいた北浦和の近くの見沼田んぼにある、知り合いに紹介してもらった市民農園(※1)で約120㎡の畑を借りました。

ただそこで大きな壁にぶち当たったんですよ。

シェア畑では運営メンバーの方が育て方の指導をしてくれたのですが、市民農園では基本的に全て自分で決めないといけなかったんです。なので最初の頃は同じく周辺で畑を借りている周りのおじいちゃん達にアドバイスを求めたのですが、みんな違うことを言うんですよ。

でもみなさん本当に可愛がってくれて無下には出来ないから、最終的にどうしたらいいか分からなくなるみたいな(笑)。

それから本格的に自分で勉強を始めるようになりました。
学べば学ぶほど、さらに疑問だらけになるんですけどね。

―― 多くのことに言えそうですが、一つ疑問を解決すると新しく疑問が生まれますよね(笑)

菊池さん : そうなんですよ(笑)。
勉強方法や疑問が増えていくことに悩んでいる時期(2020年)に、北浦和から伊奈町に引っ越したんです。

同時に畑も伊奈町に引越しをして、2021年から白岡市でも畑を借りました。
現在一緒に「DOJOYラボ」の活動をしている『ないとう農園』の内藤圭亮さん(ないとうけいすけ)と知り合ったのもその引っ越しをしてきた時期で。

内藤さんは伊奈町で10年以上有機農業をされていて、今では法人化して社員の方も雇っていてすごく経験豊富なんです。
内藤さんに「疑問で頭がいっぱいなんです」と相談したら、土づくりに関する知識や技術を学ぶ『土壌医検定』について教えてもらいまして。

市民農園内には何ヶ所か休憩できるスペースが
フレッシュなハーブウォーターを用意してくださいました

―― 一緒に「DOYOJラボ」の活動をしている内藤さんがきっかけで土づくりについて学び始めたのですね。

菊池さん : はい。ちょうどその時に考えていたことに重なる部分があったのも大きな要因でした。

元々自分自身で野菜作りを実践する中で、野菜を育てるために資材や肥料を購入しないといけないことに疑問を感じたんです。

その時に「堆肥化」(※1)の存在を知って、試しに自分で土に生ごみを混ぜてみたら、生ごみが消える上に土の状態が良くなったように感じて、すごく驚いてワクワクしたんですよ。

でも本当に土の状態は良くなっているのか、野菜にとってプラスになっているのか、どんな栄養になっているのか、などなど疑問が増えてきたこともあって『土壌医検定』の勉強を始めたんです。

※1 微生物の力で生ごみや落ち葉などの有機物を分解・発酵させ、有機肥料をつくること。

菊池さんの興味関心がきっかけとなった「DOJOYラボ」の立ち上げ

―― ご自身の疑問とタイムリーな内容だったんですね。勉強はいかがでしたか?

菊池さん : 元素記号など高校の化学の教科書に出てくるような内容もあるので、正直ガチガチの文系だった私にとっては難しいなと感じることも多いです(笑)

でもすごく楽しくて、土づくりや堆肥化についてもっと知りたいと思うようになっていきました。

そんな時に内藤さんから、私が気になっていた岐阜で堆肥化のワークショップをされている『五段農園』の高谷裕一郎(たかやゆういちろう)さんのところへ、現『ヨサクファーム』の愛敬義弘(あいけいよしひろ)さんが通われていたという話を聞きまして。

岐阜に通うのは難しい。それならば、愛敬さんから学べばいいじゃんと思って(笑)

その後、愛敬さんに直接お会いする機会があったので、お願いをして2023年1月にないとう農園の畑をお借りして堆肥化に関する勉強会を開いてもらったんです。

―― すごい偶然ですね。

菊池さん : そうなんですよね。個人的にすごく楽しく学びの多い時間で。

愛敬さんも堆肥化や土壌についてもっと見識を深めたり、広めていきたいと言ってくださったんですよね。
ならば定期的に活動していこうとなりまして。

でも私たちだけでは栽培をはじめとした農家としての経験が不足していて不安だったので、内藤さんをナンパしようとなったんです。

内藤さんも、野菜の生産販売だけではないことに取り組んでいきたいというタイミングだったこともあり、3人の共通の関心である生ごみの堆肥化をツールとして、場作りやコミュニティ作りの可能性を考える「DOJOYラボ」を立ち上げることにしたんです。

共同で管理しているコンポスト。絵はイベントの企画でこども達が書いたもの

―― 怒涛の展開ですね。

菊池さん : 実は「DOJOYラボ」を立ち上げる前の2023年5月に、愛敬さんが堆肥化について学んでいた高谷さんが携わっている「〜地球に土を還すプロジェクト〜 森道堆肥セッション」にボランティアとして参加してきたんです。

このプロジェクトは、同じく2023年5月に愛知で開催された「森、道、市場」というイベントで出た生ゴミを全て堆肥化するというものです。

飲食・物販合わせて500以上のお店が出店する大規模なイベントの生ごみを全て堆肥化するなんて、一体どんなものなのか興味が湧いてしまって。

本当にすごく貴重な経験になりまして、より堆肥化について深めていきたいと思いました。
その経験も「DOJOYラボ」立ち上げのきっかけになりましたね。

人生は長くない。だから動ける時に動く

―― 数万人が来場するイベントの生ゴミを全て堆肥化ですか…!すごく興味深いイベントです。ボランティアへの参加に「DOJOYラボ」の立ち上げにと、ご自身の興味関心にすごく真っ直ぐに行動されるのだなと感じました。

菊池さん : そうですね。
ボランティアも行くことを決めた後に、夫に子どもをお願いできないことが分かりまして。
結局子供連れで行くことにしたんですけど、周りからはよく行くねーって言われましたね(笑)

こうしてフットワーク軽く直感的に行動するようになったのは、両親を看取った経験があるからかもしれません。
介護に付きっきりの時期はまとまった時間を確保するのが難しかったんです。

また、母が亡くなったのは60歳になる前で、人生は思っていたよりも長くないと感じたんですよね。
出来るだけ動ける状態の時には自分が心から「楽しい」と思えることをどんどんやっていこうと思うようになりました。

とはいえ今は夫と子どもとの時間もすごく大切で。バランスを取りながら活動をしている状況です。
どこかでアクセルが踏める段階になったら、もっと現在の活動に注力していきたいですね。

さまざまな活動の先に年齢も性別も立場も国籍も関係なく、いろんな人が食事を囲むような世界が実現したら嬉しいですね。

――直感的にやりたいと思ったさまざまな活動が、つながりロゴに込めた想いが現実となっていきそうですね!本日はありがとうございました。

ハオツーツァイ
  • 屋号:ハオツーツァイ
  • 畑の場所:埼玉県伊奈町・白岡市
  • お問い合わせ先:インスタグラムのDMより
  • SNS:@hao2cai

〈インタビュアー・文・撮影:菊村夏水

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