アトリエ、コワーキング、足水スポット…来るたびに新たな発見がある古民家カフェ『Big Mouse』。キャンプ場・グランピング施設と共に西区をより面白く。
明るい日差しが差し込む敷地の入り口を抜けると右手には古民家を改装したカフェ、左手にはキャンプ場が目に飛び込んできた。
大宮駅から車で約20分。荒川サイクリングロード沿いに突如現れるその空間は山奥のような静けさに包まれていて、駅前の喧騒を忘れさせてくれる。
さらに、左手奥に続く道を進んでみると何やら新たな施設が作られている様子。
「現在、グラピング施設を新たに作っているんです」と教えてくれたのは入って右手にある古民家カフェ『ビックマウス』の店主、関さん。
カフェ、キャンプ場、新たに作られているグランピング施設が隣接するこの一帯は貸地で、元々カフェ・盆栽屋・厩舎として利用されていた。
2019年に起きた洪水による浸水がきっかけで、カフェと厩屋が撤退。空いた敷地を空調会社『才木工業』が借り、まずカフェとキャンプ場をオープン。
関さんは『才木工業』の社員としてカフェ『ビックマウス』の立ち上げから現在まで運営に携わっている。カフェ内や外のテラス席にあるインテリアの多くは関さんが手作りしたものだ。
古民家と手作りで作ったインテリアが絶妙にマッチした空間は、どこか懐かしく落ち着く雰囲気。
店内では発酵料理や本格的なコーヒー、自家製のスイーツが提供されている。
おすすめの「甘酒スムージー」の甘酒は、非加熱で作られるためなんと菌が生きた状態。
一口飲んでみると想像以上に飲みやすい。甘酒や発酵食品に苦手意識を持っている人でも気軽に楽しめそうだ。
自家製のプリンは卵のコクがしっかり感じられ、ほろ苦いカラメルとの相性が抜群の一品。
ふと店内の奥を覗いてみると職人の方が作業するシーンや、使用している道具を間近に見ることが出来るアトリエが併設されている。
「 アトリエの併設は『ディズニーランド』から着想を得ています。ディズニーランドはアトラクションの待ち時間も楽しめるよう、順路にさまざまな工夫がなされているんですよね。
『ビックマウス』でも注文した商品を待っている間に、普段はなかなか見る機会のない職人さんの作業風景を眺めたり道具を近くで見てもらうことで、楽しんでもらえたら嬉しいです」
待ち時間を楽しんでもらう工夫はアトリエだけではない。
店内を眺めると、さまざまなチラシやクラフト作家さんの作品。
少し足を伸ばして、キャンプ場やグランピング施設を見学することも出来る。
外に出てみると今年の7月から始まったという足水スポットが。
(冬季はこたつスポットに。)
「常連さんには『来るたびに新しいことをしているね』と言われますね。計画を立てている訳ではなく、ふと思いついた僕らが楽しいことをやる。一緒に日々の変化を楽しんでもらえたら嬉しいですね。ディズニーランドも行くたびに変化があるじゃないですか。図らずも『ビックマウス』のロゴにはネズミが入っていますしね(笑)」
訪れたときに何か新たな取り組みをしているかもしれないというワクワク感。
開店してまだ2年ほどだが、多くの地元民から愛されているのも頷ける。
流暢に、そして楽しそうに説明をしてくれる関さん。
カフェ営業だけでなくイベント運営や周辺施設管理など、その仕事は多岐にわたる。
だが、実は前職は全く畑違いの仕事をしていたというから驚きだ。
「新卒からずっと7年間、営業職として働いていました。元々、いつか自分でお店を持ちたいという想いは持っていたのですが、なかなか一歩踏み出せませんでした。そんな時に才木工業の社長、才木に『現在ビックマウスのある場所を借りたから一緒にカフェをやらないか』と言われたんです」
2人の出会いはひょんなことだった。
知り合いに「面白い人がいる」と才木さんを紹介されたのは、関さんがちょうど転職を決め前職を退職したタイミング。
転職先での勤務開始までに時間があったため『才木工業』でアルバイトをさせてもらうことにした。
「働きながら色々な話を聞かせてもらいました。才木は現在、撮影スタジオ兼弊社倉庫として使用されている『ゼロポイント基地 与野』という広大な施設を1人でDIYしたんですよね。その他の活動含めてすごく面白い人で、いつか一緒に仕事をしたいなと思っていました」
予定通り転職先の会社で働き始めたことで、一度はその気持ちをしまいこんだが、約一年後に前述のオファーが舞い込んだ。
「地元の人に聞くと、あの場所は30〜40年くらいのスパンで浸水するらしいんですよね。それを聞いた才木は『じゃあ、借りたタイミングから30年は大丈夫だね』と。すごい発想ですよね(笑)
でもその話を聞いて、やっぱりこの社長の元で働きたいし、夢だったお店をやるならこのタイミングを逃せないなと。それに、未経験の僕に一任しようとしてくれる社長の気持ちに応えたいと思いました。
ただプライベートでは2人目の子供が生まれるタイミングということもあり、奥さんからは反対されていて…。今後の見通しが立っていないのだから当たり前ですよね。ですが最終的には僕が夢を追いたい気持ちを尊重してくれました」
2021年5月のGWにカフェスペースをオープンした。飲食店での勤務経験があるスタッフの方の助けを借りながら奮闘する日々。
「発酵とコーヒー」というコンセプトや場所の雰囲気を気に入って来店する方も多く、徐々に常連さんが増加していった。
2022年5月には盆栽屋さんが撤退した場所を借りて、前述のアトリエとシェアオフィス兼コワーキングスペースをオープン。
日々の試行錯誤と新たなチャレンジを繰り返しながら、今年の5月でカフェオープンから2周年を迎えた。
現在は関さんがずっと取り組みたいと思っていた「6次産業化」に注力している。
6次産業化とは、作物などの生産者(1次産業者)が加工(2次産業)と流通・販売(3次産業)まで行うことだ。
「元々大学時代から興味がある分野でした。自分達や信頼している農家さんが作った原材料で商品を作って販売できれば、自信を持って安心安全な商品といえます。また、地域にとってのお土産となる商品を作りたいという想いがずっとありました。この3年間、試行錯誤をする中で『甘酒スムージー』に手応えを感じています」
『甘酒スムージー』に使用するお米を近隣の農家さんから仕入れて使用。
今後はフレーバとして使用しているフルーツを地域の農家さんから仕入れることを検討中だ。
カフェだけでなく、キャンプ場・グランピング施設を含めた土地一帯を活用した取り組みも、徐々広がりをみせている。
キャンプ場とコラボした焚き火イベントを不定期で開催。
キャンプ場とカフェのお客さんが交流する機会となっている。
お店に訪れた人が、場所を活用した自発的なイベントを開催する機会も増加。
「僕ら『才木工業』はどちらかというと、場所を作るプロなのでどんどん場所の活用方法の提案をしてもらえたら嬉しいですね。大宮には『大宮氷川神社』もあってお祭りと縁が深い土地なので、将来的には民間有志のお祭りを出来たらいいなと思っています。
ですがまだまだ僕ら自身に余裕がないので、まずはお店をより魅力的で多くの人に訪れる場所にしていくことに注力していきたいですね。よくよくはもっと地域に貢献できるようになったら嬉しいです」
誰もが関わる余白、常に新たなことに取り組む姿勢、地域に貢献しようとする意識。
そのようなところに多くの人が惹かれて、つい訪れてしまうのではないだろうか。
『Big Mouse』を含むこの一帯から西区がもっと盛り上がっていく、そんな予感がした。
- 所在地:埼玉県さいたま市西区西遊馬3131
- お問い合わせ先:070-8476-3986
- 営業日時:平日 10:00-17:00 土日祝 7:30(夏季のみ)-17:00
- 定休日:無し、不定休(インスタグラムをご確認ください)
- 駐車場:20台
- SNS:@bigmouse_arakawa_sashiogi
- 才木工業HP:https://saiki-kogyo.studio.site/
- 桃月園 SNS:@saitama_tougetsuen_camping
〈インタビュアー・文・撮影:菊村夏水 〉
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